インド映画スター列伝-ランヴィール・シン-(高倉嘉男)

今回からスタートする「インド映画スター列伝」第1回は、個性的な存在感と幅広い役柄で知られるランヴィール・シンを取り上げます。

コミュニティで寄せられた「ランヴィール・シンについて知りたい」という声をきっかけに、ヒンディー語映画に精通する高倉嘉男氏が、そのキャリアを振り返りながら魅力を解説します。
インド映画タイムズ 2026.10.17
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『ドゥランダル作戦』©Reliance Industries Limited, Mumbai, 2025. All Rights Reserved.

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ランヴィール・シンの出自

ヒンディー語映画界では年代ごとにその時代を象徴するスターが誕生してきた。半世紀前から振り返ってみると、1980年代は「アングリー・ヤングマン」「ワンマン・インダストリー」などと呼ばれたアミターブ・バッチャンの全盛期だったが、1990年代はアーミル・カーン、サルマーン・カーン、シャー・ルク・カーンのいわゆる「3カーン」が時代の寵児に躍り出た。2000年代以降も引き続き「3カーン」が君臨したが、リティク・ローシャンという新たなスターがプロダンサー並みの超絶ダンススキルを引っさげて登場し、時代を創り上げた。では、2010年代は誰の時代だったかということになるが、名門カプール家の「貴公子」ランビール・カプールと、先日日本でも公開された『ドゥランダル作戦』(25)の主演ランヴィール・シンの2人を挙げておけばほぼ間違いはないだろう。たまたまであるがこの2人、名前が似ており紛らわしい。今回取り上げるのは「ヴィ」の方である。

ランヴィールは、1985年7月6日にボンベイ(現ムンバイ)で生まれた。本名はランヴィール・シン・バヴナーニー。数世代に渡ってトップスターを輩出してきた超名門出身のランビールと異なり、ランヴィールは基本的にたたき上げのスターである。

ただ、バヴナーニー家が映画界と全く無関係だったわけではない。祖母のチャーンド・バルクは1940-60年代に活躍した脇役女優だったし、母親のアンジュ・バヴナーニーは『スラムドッグ$ミリオネア』(08)や『鼓動を高鳴らせ』(15)などに出演のスター俳優アニル・カプールと結婚したスニーター・カプールの従姉妹である。アニルのカプール家はランビールのカプール家の遠縁に当たるため、ランヴィールとランビールは遠い遠い親戚と見なせないこともない。ただ、いかに血縁のつながりが広く濃いインドといえども、これだけ遠い縁だと七光りの恩恵に預かることは難しい。

ちなみに、バヴナーニー家の祖地はシンド地方にある。シンド地方は1947年の印パ分離独立でパキスタン領になり、ランヴィールの祖父母はそれを機にボンベイに移住してきた。『ドゥランダル作戦』の舞台はシンド州の州都カラーチーという設定(撮影はタイなどで行われた)だったが、ランヴィールにとってそれは図らずも自身のルーツに疑似的に回帰する経験になった。

コネを持たずに映画業界に飛び込んだ、いわゆる「アウトサイダー」に共通する下積み時代の労苦をランヴィールも味わうことになった。子供の頃から漠然と俳優を目指してはいたが、米国留学したり広告企業に勤務したりと、必ずしもスター一直線の人生を歩んではいなかった。俳優一本で行くことを決めてからもなかなかいい役はもらえなかったようだ。少しでもいい役を求めてオーディションを受け続ける毎日だったという。

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