2025年のテルグ語映画を振り返る
2025年のテルグ語スター映画
『カルキ 2898-AD』『プシュパ 君臨』『デーヴァラ』とスター映画超大作が連発された2024年の翌年ですが、2025年の興行収入上位作品も、50~60代のベテラン・スター大作に占められたテルグ映画界です。
まず、興収1位は、 50代の”パワー・スター”ことパワン・カリヤーンが主演を務めたアクション映画『They call him OG〔人呼んでOG〕』(未)でした。州副首相の立場で政務多忙のため完成が遅れていた2作品『They call him OG』と『Hari Hara Veera Mallu〔ハリハラウィーラ・マッル(※主人公の名前)〕』(未)がようやく公開となり 、10月のダサラ祭に合わせて公開された『They call him OG』が大ヒットとなりました。1990年代のムンバイの港を舞台に、日本刀を武器に無敵のパワン・カリヤーンが恩人の危機を救うために帰ってくる、という映画。ふしぎ日本満載です。
※パワン・カリヤーンは”メガスター”の愛称でお馴染みの チランジーヴィの年の離れた弟で、チャランの叔父にあたります。
これに匹敵するヒットが60代御三家の一人、ヴェンカテーシュ主演の『Sankranthiki Vasthunam〔サンクラーンティに参ります〕』(未)。1月のサンクラーンティ祭休みに公開の、いわばテルグ版正月映画。『F2:ファン&フラストレーション』(2019)、『F3: Fun and Frustration』(2022・未)に続く、アニル・ラーヴィプーディ監督&ヴェンカテーシュ主演のコンビが手がけたコメディーとなっており、家族総出で映画館に出かけて楽しんだ1980年代以前を思わせるような懐かしい映画で興収2位 。
同じく1980年代にデビューした60 代の御曹司俳優二人は、アクション映画での勝負となりました。まず、伝説の大スターNTRの六男バーラクリシュナは、12月公開の『Akhanda 2: Thaandavam〔超越者2:ターンダヴァの舞〕』(未)に出演 。得意のファクショニスト抗争映画に、二役で演じる神がかりヒーローのファンタジー要素を加えてヒットした『Akhanda〔超越者〕』(2021・未)の続編で2025年の興収7位となりましたが、VFXを多用して製作費が大幅アップしたので製作費の回収は難しいと思われます。もう一方の大スターANRの息子ナーガールジュナは、タミル語映画スター若手ダヌシュ主演の社会派アクション『Kuberaa〔クベーラ〕』(未)と、大御所ラジニカーント主演の大ヒット『Coolie(クーリー)』(未)の2作品で悪役助演で出演しました。前者がタミル語・テルグ語の2言語映画でテルグ語版がヒットして5位、後者はタミル語映画の中で1位となっています。
そして、40代のラーム・チャラン主演『Game Changer〔流れを変える者〕』(未)は 興収3位に食い込んだものの 、巨額の製作費には遠く及ばない客入りとなりました 。本作で監督を務めたタミル映画界のベテラン、シャンカル監督にとっても、『Indian 2〔インド人2〕』(2024・未)に続く失敗作扱いとなっています。スター大作の難しさが現れた一作でした 。ただ、多くの製作費が割かれたと思われる数ある群衆ダンスシーンは見どころの一つです。
新人監督作品
中堅若手スターの主演映画で上位に食い込んだのは、『マッキー』(2012)で日本でもおなじみのナーニ主演『HIT: The Third Case〔殺人課:第三の事件〕』(未)です。ナーニも今や40代、近年はコンスタントにヒットを飛ばし何でもできる演技派としてスターの位置を固めているのですが、今作は「スター映画」という枠では語れない作品となりました。ナーニはプロデューサーとしても新進映画人を後押ししており、「HIT(殺人課)」シリーズも、新人サイレーシュ・コラヌ監督を起用した警察ミステリーもので、3作目にしてナーニ本人が主演し、8位の興収スーパーヒットとなった経緯があります。ナーニ演じる警視の捜査はなにしろ過激です。『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984)はヒンドゥー教への偏見を広めたとしてインドではすこぶる評判の悪い作品ですが、現代版魔宮とも見える秘密の会合に潜入、というのが山場です。『魔宮の伝説』にたとえて言うと、魔宮の邪教は植民地政府もからんだ巨悪が仕組んだ陰謀だったというオチがついている、というような筋書きの映画なのです。警察の拷問や大衆動員の抗議運動に対する覚めた視線など、ネット情報に敏感で「きれいごとはもうたくさん」という高学歴の若者層を意識した作りなのでしょう。VFXを駆使したリアルすぎる暴力描写など、好き嫌いは分かれると思いますが、いろいろ考えさせられます。ナーニのプロダクションは、今年もう一作、新人監督ラーム・ジャガディーシュの『Court: State vs A Nobody〔法廷:州vs無名人〕』(未)という作品でもヒットを出しています。こちらは、「POCSO=性的攻撃からの児童保護法」の悪用で人生を棒にふりかけている若者を救おうという若い弁護士の奮闘を描いています。
さて、若手主演の大ヒットとしてはもう一作、興収4位となったVFXファンタジー大作『Mirai〔ミラーイ(※作中に登場する武器の名前)〕』(未)。主演は『ハヌ・マン』(2024)のテージャ・サッジャですが、監督は撮影監督出身のカールティーク・ガッタマネーニ。ハイダラーバードで暮らす気ままな孤児の若者が、アショーカ王の魔力が込められたグランタ(書物)を守り未来への希望をつなぐという使命をもって生まれたことを知る、というちょっとバーフバリ的な筋書きです。興行収入は『ハヌ・マン』に及ばなかったものの、個人的にはこちらのほうが面白いと感じました。まず、何といっても敵が強い。また、敵役が「神のいない世界を作りたい」と思うに至った過程も少年時代から描かれています。主役もただの喧嘩の強い若者から、胎内で聞いた母(『RRR 』のラーマの母サロージニ役のシュリヤー・サランが演じる)の言葉を思い出し、縁のある人に出会って、と段階を経て能力を発揮していきます。タイトルになっている武器の名前ミラーイは日本語の「未来」から。同じくふしぎ日本でも、9冊のグランタの1冊を日本で守る2024年のヤクザは1990年代の『OG』のサムライと違って弱いです。ひょっとして、日本のアニメやゲームの影響のネーミング?と思ってしまいます。カンナダ語作品『Kantara: A Legend – Chapter 1〔神話の森:伝説第一章〕』(2025・未)とも似た、創作歴史ファンタジー、ユーモアシーンも交えて現代のインドの若者がどんな感覚で神話や伝説に接しているかがうかがえる作品です。
2026年以後に向けて
ラージャマウリ監督作品では、日本でも上映された『バーフバリ エピック4K』が、若い世代にも映画館でみてほしいIMAX仕様の編集版としてインドでの再上映作品の興行収入を塗り替えたようですが、歌やダンスをはじめ、結構美味しいところがカットされているのが残念です。2027年公開予定の新作『Varanasi〔ベナレス〕』は厳しい情報統制のもとPVのみを巨大スクリーンで公開するイベントが開催されました。機材トラブル等もありましたが多くのファンの話題を集めたようです。2026年は『マッキー』のオリジナル版(海外配給版とは内容が異なる)の世界的なリバイバル公開も予定という報道があります。
2026年のスター映画は、サンクラーンティ映画としてすでに公開されたプラバース主演ホラー映画『The Raja Saab〔ラージャ様〕』(未)と、大御所チランジーヴィ主演の『Mana Shankara Vara Prasad Garu〔我らがシャンカラワラプラサードさん〕』(未)、3月にはラームチャラン主演のクリケットもの『Peddi〔ペッディ〕』(未)が公開予定です。
その他・注目作品
『The Girlfriend〔ガールフレンド〕』(未)
『プシュパ』シリーズのヒロインとして全インド的に人気絶頂のラシュミカー主演のフェミニズム学園もの。恋人や父親のご都合主義に振り回されたヒロインが、振られた腹いせに嫌がらせする最低男のプライドを叩きのめして自立していくストーリー。9年前のデビュー作以来の学園ものですが、男優陣が40過ぎで学生役をやるのが普通の映画界ですから、ラシュミカーの年齢で女学生を演じるのも無理もないです。
『Santhana Prapthirasthu〔子に恵まれるべし〕』(未)
娘の父親の反対を押し切って駆け落ち結婚したエリート・ITエンジニアが、「子供ができれば親も許す」という計算と裏腹に、自分が原因で不妊であることを知り悪戦苦闘するコメディー。こちらも、夫や父親の男の身勝手を厳しく糾弾するフェミニズム映画。同じく不妊と代理出産をテーマにした『Telusu Kada〔わかるだろ?〕』(未)が、元恋人を代理母に選ぶという最低男っぷりを糾弾しながら、子供が生まれたら丸く収まってしまう、というのと比べると、誠実な作品です。
『Champion〔チャンピオン〕』(未)
インド独立とハイダラーバード藩王国のインド併合の間の、テランガーナー農民蜂起とラザーカール民兵の戦いを描く時代もの。20代のローシャンが演じる、戦う気のなかったプロサッカー選手志望の若者がこの闘争に関わっていくことになる、という映画。ヒロインが殺されてヒーローが生き残る、という大衆映画と逆に、ヒーローをはじめ善玉キャラがみんな死んでヒロインが生き残って語り継ぐ、という珍しいパターンです。
『Dhandoraa〔お触れの太鼓〕』(未)
ダンドーラーは太鼓を叩いて民に布告することで、ナーラーヤナムールティ監督の革命・蜂起ものにも同名の作品がありますが、初監督作品に異カースト婚と制裁殺人という重たいテーマを選んだムラリカーント監督は、社会派というよりは人間ドラマ・ファミリードラマとして、世代、都市と農村、学歴・経済力等で価値観が大きく異なる現代的状況を巧みに描いています。中でも家族との絆を失った父親役のシヴァージーの演技が光ります。結局、彼は「カースト八分」になる行動をとるのですが、カーストの相互扶助機能が冠婚葬祭ぐらいにしか意味を持たなくなった現代では、カースト八分とは死後の火葬を拒否される、ということでしかありません。徐々にとはいえ、いずれカースト制度は消えていくだろうと予感させる結末です。
『Andhra King Taluka〔アーンドラ・キングの関係者〕』(未)
落目になった映画スターの100作目の製作中止の危機を救った匿名の資金振込が、地方ファン組織のリーダーのものだったと知ったスターが、どんな事情で彼がそんな行動に及んだかを知っていくというストーリー。2003年という設定ですが、南インド映画のスターのファンダムが今もどんな人々から成り立っているかを見せてくれる作品です。
『バーフバリ』シリーズ(2015/17)や『RRR』(2021)でも重要な「テャーガム(無私の自己犠牲)」が『Andhra King Taluka』の中心テーマですが、『Mirai』でも『Game Changer』でも「母のテャーガム」がヒーローの行動に重要な影響を与えます。ただ、断捨離されてしまったヒロイン(例えば『RRR』のシータ)から見れば詐欺にあったようなものなので、怒って当然です。『Andhra King Taluka』の結末は、男の身勝手に甘いご都合主義かもしれません。
『Little Hearts〔小さな心たち〕』(未)
オンライン配信用に製作された低予算映画ですが、劇場公開したところブロックバスターとなったという作品です。親の要求で理工系・医薬系進学の予備校に通わされる男女浪人生のラブストーリーのコメディーですが、ヒットの要因は、2015年という設定を細かくリアルに描いた点が、若い世代にとってはノスタルジアを感じさせた、ということのようです。「Jio以前」がキーワード。2016年に参入した通信事業者Jioは、4Gの高速通信網でスマホのデータ通信を劇的に低料金化し、音声通話もインターネット経由で無料となりました。2015年だと、動画や画像は自宅のパソコンのフェイスブックでしかやりとりできなかった、というところがまずポイント、さらに、服装・髪型・ストリートフード・テランガーナー州分割など、若い世代にとっては懐かしいことばかりなのでしょう。我々に確認できるのは、登場人物たちの『バーフバリ』シリーズの前評判と、公開直後の酷評から一転しての大逆転が、恋の行方とシンクロしている、というところぐらいです。双方の親にばれて会えなくなるのですが、Jioのおかげで遠距離恋愛も成就して2025年にゴールイン、というお気楽展開。あれほど反対していた親も「金が稼げてるからOK」と身も蓋もない。まあ、文系進学だって稼げるんだぞ、というのが新人マールターンド監督のメッセージでしょうか。
配信情報まとめ
『They call him OG』:Netflix(英語字幕、以下同)
『Hari Hara Veera Mallu』:米Amazon(日本から見られるかどうかは未確認、以下同)
『Sankranthiki Vasthunam』:Zee5
『F2: ファン&フラストレーション』:米Amazon
『F3: Fun and Frustration』:Netflix
『Akhanda 2』:Netflix
『Akhanda』:Jio Hotstar(日本からはアクセス不可、以下同)
『Kuberaa』:米Amazon
『Coolie』:米Amazon
『Game Changer』:米Amazon
『Indian 2』:Netflix
『HIT: The Third Case』:Netflix
『Court: State vs A Nobody』:Netflix
『Mirai』:Jio Hotstar
『The Raja Saab』:OTTパートナーはJio Hotstarとの報道
『Mana Shankara Vara Prasad Garu』:OTTパートナーはZee5との報道
『The Girlfriend』:Netflix
『Santhana Prapthirasthu』:米Amazon
『Telusu Kada』:Netflix
『Champion』:Netflix
『Dhandoraa』:米Amazon
『Andhra King Taluka』:Netflix
『Little Hearts』:Netflix
※他言語への吹き替え版がYouTubeなどで視聴できるケースもある。
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