パンカジ・トリパーティー氏来日イベントレポート「初の外国旅行は四半世紀前の東京でした!」
インドと日本を結ぶ貴重な交流の場となった当日の模様をレポートでお届けします。
イベントレポート
3月24日の東京都江戸川区の公共施設。1000人以上を収容可能なその大ホールは熱気にあふれていた。首都圏在住のインドの人々が、折にふれてこうした公共施設を借り切り、ステージでプロ・アマチュアのダンスや歌を披露しあう集いを設けるのは珍しいことではない。しかし今回の催しを特別なものとしているのは、パンカジ・トリパーティー氏という特大級のゲストの存在だ。
イベントは「Connecting Ganga to Mout Fuji(ガンジス川と富士山をつなぐ)」と題されていた。これまで日印の観光業界の交流などを目的とした官製イベントで「Connecting Himalayas with Mount Fuji(ヒマラヤ山脈と富士山をつなぐ)」というキャッチフレーズが掲げられることはあったが、今回はガンジス川である。それは、今回のイベントがインド北部のガンジス川が流れるビハール州の人々を中心にした(しかし他地域の人々を寄せ付けない排他的なものではない)ものだったことから来たようだ。そして現代のインド映画の世界でビハール州が生んだもっとも著名な俳優の一人がパンカジ・トリパーティー氏なのである。

パンカジ・トリパーティ氏は1976年に北インド・ビハール州ゴーパールガンジ県バラオリーの農村ベールサンドに生まれた。父は農業とヒンドゥー教寺院の司祭職を兼ねる人物だった。子供時代は学校に通いながら家で農作業の手伝いも行い、時おり村芝居でステージに立つこともある生活だったという。料理人になれば外国に渡り高収入を得ることも可能だとの親族のアドバイスに従い、高校卒業後に州都パトナーに移り、専門学校で調理を学び、五つ星ホテルの厨房で見習いとして働くなどした。パトナーで7年を過ごしたあと、演技者になることを決意して1990年代後半にデリーに移り、NSD(国立演劇学校)で学び、2003年にカンナダ語映画『Chigurida Kanasu』(未)の脇役でスクリーン・デビュー。2004年にムンバイに居を移し、ヒンディー語映画界で本格的に活動を開始し、主に悪役を演じながらキャリアを積む。マルチスター作品『血の抗争』二部作(2012)への出演によるブレイク以降のことは、ここで書くまでもないだろう。
熱狂するビハールの人々、その他のインドやネパールからやってきた人も含むファン、日本人の観覧者も含めた2時間に渡るイベントで、最大のハイライトだった壇上でのトークの要部を編集して紹介する。

これまでの道のりについて
1986年、私がまだ10歳の子供だったとき、占星術師に占ってもらったことがあります。占い師は信じられないというような顔をしながら、「この子は将来、頻繁に飛行機に乗って外国に渡航するようになるだろう」と言ったのです。親や周りの人々は、議論をたたかわせ、「きっとエアインディアの整備士になるのだろう」という結論に至りました。そこまで話をしながらも、操縦士や客室乗務員になるという可能性は考慮されませんでした。
そして成人し、演劇活動に携わるようになり、初めて海外渡航の機会が訪れました。行き先は日本です。1999年※に東京で行われたアジアの演劇祭で、新国立劇場でパフォーマンスをするためです。劇団黒テントとのコラボレーションで上演することになったのです。のちにNSDの校長となったアヌラーダー・カプールに声をかけられ、初めてパスポートをとり、初めてジャンボジェット機に乗ったのです。乗客は300~400人もいたでしょうか。うちの村人全員が乗ってきたのかと思いました。日本には1か月滞在したんですよ。その時もらった5円玉に紐を通したお守りは今でも持っています。
初の飛行機搭乗から時は流れ、私はまもなくある航空会社(秘守義務がありまだ名前は言えませんが)のブランド・アンバサダー(広報大使)に就任するまでになりました。
映画の世界に入る前にはデリーのNSDで奨学生として学びました。無料で訓練を受け奨学金までもらったのです。私を俳優にしてくれたのは政府と納税者であるインド国民の皆さんです。もしも下手な演技をしたらそれは国に損失をもたらすことになるという思いがいつもあります。
NSD在学中からデリーで演劇活動をしていましたが、舞台がない期間には故郷に帰り父を手伝い農作業をしていました。1990年代に入っても電気もない僻村でしたが、私たちは農業に誇りを持ち、幸せでした。
ムンバイでの下積み時代には学校教師をしていた妻(2004年に結婚)が家計を支えていました。それほど物を必要としない暮らしだったので何とか回っていました。TVS社の100ccのバイクを乗り回し、まだ小さかった娘を乗せて青果店に行ったりしていました。人生のサイクルは不思議なもので、今私はTVS社のブランド・アンバサダーです。
収入が得られるようになってから、何とか頑張って現代(ヒョンデ)自動車の「i10」という乗用車をローンを組んで買いました。そしてここでも人生の不思議なサイクルにより、今の私は現代自動車「i10」のブランド・アンバサダーです。
これらの話は自慢ではありません。会場の皆さんも、インドからこの東京により良いチャンス、キャリア、ビジネスを求めてはるばるやってきました。そうであっても、皆さんの心の中にはインドが息づいています。このインド国旗のカラー(インド国旗の3色をあしらったショールが贈られ、それを首に掛けていた)を見て胸が熱くなりました。私たちの人生、私だけではなく皆さんの人生には、本当にたくさんの物語が詰まっています。誠実に自分の仕事を続けていけば、物事はひらけていくという激励のための話なんです。
ムンバイの中心地ではなく北郊のマド・アイランドにある自邸について
家には、故郷の村のように造形された一角があります。原点を忘れず、謙虚でいるためにそのようにしたのです。ここ東京でも秋には木々は紅葉して葉が落ちると聞きました。どんなに風に運ばれて遠くへ行っても、落ちた葉は自分がどの木から落ちたのかを知っているべきだと思います。ルーツを自覚することは大事なのです。自分のルーツを知っている人は、そう簡単には折れませんから。

NSDで学んだメソッド演技法を実践しているという、そのリアリズム演技について
私の考えるリアリズムとは、簡単に言えば確かにその人物が実在すると信じられる迫真性です。「こうした人物が実際にいる」と実感できることが大切です。『バレーリーのバルフィー』の父親を観て、多くの女性が「うちの父や叔父がまさにああいう感じ」と言ってくれました。『グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて』でも、デリーの女学生たちが同様に感じたと言ってくれました。
演技のリアリズムが本当に効力を持つのは、観衆が「こういう人物をどこかで見たことがある。このキャラクターは作り物じゃない」と感じられるときだけです。さもなければ、リアリティーを生じさせるのはとても難しい。実際には何も本物ではないのですから。例えば『バレーリーのバルフィー』で私の娘役のクリティ・サノンは、撮影日の朝8時にどこか別の所から来ただけで、本当の娘ではない。妻役の女性も、実際には別の誰かの妻です。それでも、その関係性を信じさせ、私たちが父娘であると感じてもらうこと——それが演技におけるリアリズムを生みます。それを信じさせるには、リハーサル、人間観察、技術的修練が必要です。つまり、非常に説得力をもって嘘をつけなければならないのです。私の仕事は文字通り、嘘をつくことです。スクリーン上でやっていることは作り物ですが、私は現実の生活では嘘をつきません。なぜなら、もし現実で嘘をつき始めたら、スクリーンの上でも作り物になってしまうから。私の職業は嘘をつくことですが、この職業には途方もない誠実さが求められます。
かつてTVショーで披露して大うけだったビハールの大衆芸能ロウンダー・ナーチ(女装した男性がアップビートでセクシーに踊るダンス)をせがまれ、僅かワンステップの瞬間芸で会場を沸かせ、パンカジ・トリパーティー・ショーは終了したのだった。
※スピーチでは1999年と発言されていたが、実際には2000年に行われた、アジア・アート・フェスティバル(平成12年度文化庁芸術祭参加公演)における、劇団黒テントとの合作によるヒンディー/ウルドゥー語劇『九さんの話』 (原作:郭宝崑=クオ・パ オ・クン、10月25日~11月5日、新国立劇場小劇場)上演への参加だったものと思われる。その来日の際のスナップ写真もここやここに残っている。

日本で公開・上映・配信された出演作品
■長編劇映画
2010 ラーヴァン(Raavan)
2012 火の道(Agneepath)
2012 血の抗争 二部作(Gangs of Wasseypur)
2013 フックレー ないない尽くしの男たち(Fukrey)
2014 ならず者たち(Gunday)
2015 生と死と、その間にあるもの(Masaan)
2015 ニュー・クラスメイト(Nil Battey Sannata)
2017 ニュートン(Newton)
2017 バレーリーのバルフィ(Bareilly Ki Barfi)
2017 ムンナー・マイケル(Munna Michael)
2018 カーラ 黒い砦の闘い(タミル語)(Kaala)
2018 ストゥリー 女に呪われた町(Stree)
2019 スーパー30 アーナンド先生の教室(Super 30)
2019 Drive/ドライヴ(Drive)
2020 イングリッシュ・ミディアム(Angrezi Medium)
2020 タイラー・レイク -命の奪還-(アメリカ映画)(Extraction)
2020 グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて(Gunjan Saxena: The Kargil Girl)
2020 LUDO ~4つの物語~(LUDO)
2024 Main Atal Hoon
2024 マーダー・ムバラク(Murder Mubarak)
■ウェブシリーズ
2018-19 聖なるゲーム(Sacred Games)
2018- ミルザープル 〜抗争の街〜(Mirzapur)
動画レポート
フォトレポート












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