映画『WAR/バトル・オブ・フェイト』レビュー|続編が示すインド映画アクションの現在

2026年最初の一般劇場公開のインド映画となる『WAR/バトル・オブ・フェイト』。
映画ライター・ISO氏がその魅力をレビューします。年始にスクリーンで観る一本を検討する参考になれば幸いです。
インド映画タイムズ 2026.01.02
誰でも

2019年のインド映画世界興収No.1を記録したヒンディー語映画『WAR ウォー!!』。『タイガー 伝説のスパイ』(2012)に端緒をなすメディア・フランチャイズ<YRFスパイユニバース>の3作目に位置付けられており、戦争を意味するヘヴィなタイトルとは裏腹に、その中身は観客を現実逃避に誘う娯楽特化型のスペクタクル大作である。リティク・ローシャンとタイガー・シュロフによる特濃の師弟関係が絡み合うドラマと、過去や嘘が暴かれることで反転していく構成、そして何よりハリウッド映画を強く意識したド派手なアクションは、インドのみならず世界中の映画ファンの心を撃ち抜いた。その待望の続編 であり、<YRFスパイユニバース>の6作目にあたる『WAR/バトル・オブ・フェイト』が、いよいよ日本でお披露目される。

  ※本記事では、前作『WAR ウォー!!』の物語の結末に言及している箇所があります。 前作を未鑑賞の方は、あらかじめご了承のうえお読みください。  

『WAR/バトル・オブ・フェイト』2026年1月2日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー(配給:ツイン)。(C)YASH RAJ FILMS PVT. LTD. 2025

『WAR/バトル・オブ・フェイト』2026年1月2日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー(配給:ツイン)。(C)YASH RAJ FILMS PVT. LTD. 2025

「名もなき英雄が生まれるまで」を描いた一作目

続編の話を始める前に、まずは『WAR ウォー!!』のおさらいから始めよう。物語はインド政府の諜報機関・RAWに所属する凄腕エージェントのカビール(リティク・ローシャン)が、味方の上級分析官を殺害したことから幕を開ける。RAW局長のルトラ大佐(アーシュトーシュ・ラーナー)の指令で、裏切り者のカビールを始末するために動き出したのは、彼が一流エージェントに育てたハーリド(タイガー・シュロフ)だった。

だが実はカビールは国を守るため、秘密裏にイスラム過激派のテロリストを追っていたのだ。シングルマザーのナイナ(ヴァーニー・カプール)の協力でカビールは敵に近付くも、その過程で彼はナイナを失い、ハーリドも既に殺されていたことを知る——カビールを追っていたハーリドの正体は、整形で顔を変えた敵のエージェントだったのだ。すべてを知ったカビールはイスラム過激派のテロリストと偽ハーリドを始末し、”裏切り者”の汚名を被ったままRAWの影で暗躍する孤高のエージェントとして生きることを決意する——。

激情の鍔迫り合いはさらに濃厚に

そうして名もなき英雄の道を選んだはずのカビールは、『WAR/バトル・オブ・フェイト』では金で殺人を請け負う国際傭兵へと変貌していた。ターゲットを必ず仕留める腕前に目をつけた世界的な犯罪シンジケート<カリ>に利用され、インド国家を脅かす極悪人へと仕立て上げられてしまう。RAWはカビールを止めるため、特殊部隊の少佐・ヴィクラム(NTR Jr.)を投入。追う者と追われる者、世界を股にかけ繰り広げる追走劇の果てに明らかとなっていく過去。やがてそれは任務を超え、2人の激情が交わる死闘へと発展していく。

リティク・ローシャン以外にもアーシュトーシュ・ラーナーなど続投キャストはいるが、物語の連続性は基本的にないため『WAR ウォー!!』については上記のあらましを知っておけば問題ナシ。前作で退場したタイガー・シュロフに次いでリティク・ローシャンと衝突するのは、本作がボリウッドデビュー作となるテルグ語映画界のスター、NTR Jr.。雄々しい顔つきと肉体を持ち、ピュアさと暴力性を感じさせるヴィクラムはまさに彼のハマり役と言えよう。筋肉が波打つ活劇とダンスはもちろん、カビールと繰り広げる激情の鍔迫り合いは前作以上の濃厚さ。ただヴィクラムはもう一人の主人公というより、カビールの物語を補強する人物という位置付け。その過去や信条など奥行きのあるキャラクターではあったので、彼についてもう少し掘り下げて欲しかったのが正直なところではある。

「倣う」から「越える」アクションへ

『WAR ウォー!!』の強みは、ハリウッドが発明してきた多種多様なアクションを、特定の型に縛られることなく大胆かつ柔軟に融合したことにあった——『ダークナイト』や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』などのアクションを手掛けてきたハリウッドのスタッフも複数参加していた。『ジョン・ウィック』を思わせる長回し格闘で始まり、『ミッション:インポッシブル』を想起するバイクチェイスや『007』から着想を得たであろう氷上のカーチェイスに教会でのラストバトル。さらには『ボーン・アイデンティティー』や『フェイス/オフ』に至るまで、あらゆるハリウッド映画の系譜を感じさせた作風には一貫性がないという批判もあったが、その試みは大ヒットという形で大衆に受け入れられた。

そして『WAR/バトル・オブ・フェイト』でもそのスタイルは引き継がれているが、同時にハリウッド的アクションを越えようという意気込みも感じさせる。冒頭では日本の鎌倉——とは名ばかりの雪山の孤城——を舞台に、カビールは『キル・ビル』を思わせる日本刀アクションでヤクザたちを薙ぎ倒していく。前作のオープニングアクションである長回しにあった身体的なリアリティは薄れたものの、スローモーションやワイヤーを多用しながら細かいカット割で活写していくアクションはとにかくド派手。スペクタクルとしてさらに高みを目指すという開幕早々の宣言である。

あらゆるアクションを用いて魅せていく本シリーズであるが、特に力を入れていると感じるのは陸・海・空それぞれで見せる“乗り物アクション”だ。前作の時点でバイク、車、航空機と一通りは網羅していたが、本作ではそこに加えてヘリ、電車、小型ボート、果てはクレーンなどもアクション要素として採用。もちろん単に手数が増えただけでなく、その見せ方もさらにパワーアップ。たとえば単に航空機アクションと言っても、飛行中の航空機内を舞台にしていた前作とは打って変わって、今回のカビールは高速で飛行する機体の上で壮絶な格闘を披露する。これまでにない創造的なアクションシーンで、ハリウッドに倣うだけでなく越えようという作り手の情熱がそこには宿っている。

「愛国心」についての探求も

本シリーズを貫く思想に「愛国心」があるが、インドの独立記念日が控える週末に公開された『WAR/バトル・オブ・フェイト』ではそのテーマがより色濃く描かれている。ただその中で「おぉ!」と感じたのは、祖国にすべてを捧げることを「現代の奴隷ではないか」「その先に幸福はあるのか」と疑問を投げかけたこと。もちろん愛国心を否定する映画ではないのだが、極端な愛国と極端な自己愛を衝突させる中で、ワークライフバランスの探求に繋げていく流れは興味深いものだった。

本国では前作以上に賛否が分かれている通り、本作は決して完璧な映画とは言い難い。スケールとタイムラインを広げたことで物語が散漫になったことは否めないし、莫大な予算を注ぎ込んだはずの映像も特殊効果の荒さが目立つ部分がある。だがそのアクションに対する試みやテーマに対する視座は、間違いなく一見の価値があるものであるということは述べておきたい。

キャストほか

監督:アヤーン・ムカルジー

出演:リティック・ローシャン、NTR Jr.、キアラ・アドヴァニ

2025年 / インド / 174分 / ヒンディー語 / シネマスコープ / カラー / 5.1ch

原題:WAR 2 / 日本語字幕: 藤井美佳 / 配給:ツイン

場面写真

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