カンナダ語映画の2025年を振り返る
※本稿で言及するカンナダ語映画作品は『K.G.F』シリーズと『チャーリー』以外はすべて日本では未公開である。また、日本からアクセスできない配信サイト上のものもあるため、一部には実見できずに現地のレビューなどの情報をもとに書いているもの、あるいはほかの言語への吹き替え版を鑑賞して書いているものも含まれている。
本数は多いものの、ヒット作が生まれない上半期
2025年のカンナダ語映画界は、非常にコントラストの強いものとなった。『K.G.F: CHAPTER 2』と『Kantara〔神話の森〕』という2大ブロックバスター、それに『チャーリー』も加えた3作がインド全体を席巻し、それまで外から注目されることの少なかったカンナダ語映画界の存在が突然脚光を浴びたのが2022年だったが、翌年以降はその二日酔いのような状態に陥り、大きく話題になる作品があまり現れず、不振が続いた。2025年も中盤まではそれを引きずっていた。低調な割には公開本数だけはやたらと多く、本稿執筆時点のカウントでは全239本で、2020年代の最高値である。しかしほとんどの作品が、微かな航跡すら残さずにどこかに消えていったというのが実情だ。前年の2024年もやはり公開本数が200を超えたが、ヒットと言えたのは僅か8作品、全体の3パーセント程度にしかならず、回収できなかった資金は業界全体で52億ルピーに達したという。
こうした状況にテコ入れしようとしてか、カルナータカ州政府は3月にいくつかの映画振興策を発表した。まず、劇場チケット料金の上限を、マルチプレックスも含め200ルピー(350円程度)に抑えるというもの。しかしこれは当然ながら業界団体からの反発を受け、法制化に至っていない。ちなみに州都ベンガルールでの実際のチケット料金は150~1500ルピーと幅があり、予約サイトでの最多価格帯は200~400ルピーである。その他にもカンナダ語映画を専門に紹介する配信サイトの設立、ベンガルールでの州営マルチプレックス建設、マイスールでの最新設備を持つ映画撮影所の建設などの政策がぶち上げられたが、“正月の新聞”的な実体のない賑やかしの雰囲気が感じられる。
2025年の12月中旬まではなぜか大スターたちの出演作が少なく、公開作リストには聞いたこともないような俳優・監督の名前が並んだ。ヤシュは『K.G.F: CHAPTER 2』以降3年の間沈黙を続け、2026年イード公開とされる次作『Toxic』の情報が最近やっと出始めた。2024年6月に殺人容疑で逮捕され、若干の保釈期間を除き現在も拘束されているはずのダルシャンの『The Devil〔悪魔〕』、スディープの『Mark〔マーク〕』、ウペンドラをはじめとしたマルチスター作品『45』が、12月に封切られ僅かな間に興収トップテンに食い込んだ。
2025年カンナダ語映画興行収入Top3
全体的な低調の中で驚きのスリーパーヒットとなったのが、7月公開の低予算映画『Su From So〔ソーメーシュワラのスローチャナー〕』だった。監督のJ・P・トゥミナードは、ケーララ州最北端カーサルゴード出身のカンナダ語話者。舞台出身で、映画ではこれまで何度か脇役として演技をしていたが、本作で監督デビュー。複数いるプロデューサーの1人ラージ・B・シェッティ(日本では『チャーリー』での獣医役のみで知られる異才)のカラーが強く出たトゥルナードのヴィレッジ・コメディーで、スター不在ながら才気がみなぎる脚本が評価され、口コミの力でロングランとなった。
やはり7月に公開された『Mahavatar Narsimha〔大いなる化身ナラシンハ〕』は、ヒンドゥー教のナラシンハ神話を題材にしたアニメーション。作画はこれまでのどのインド製アニメよりも精緻で、特に戦闘シーンが良いが、人物の滑らかな動きには課題が残る。ヒンディー・カンナダ・タミル・テルグの4言語で製作・公開された。『K.G.F』シリーズなどを手掛けている製作会社ホンバーレ・フィルムズがプレゼンターをつとめたが、カンナダ語映画的な特質は感じられず、真正の汎インド映画と言っていいかもしれない。
2025年のハイライトが10月公開の『Kantara: A Legend – Chapter 1〔神話の森:伝説第1章〕』だったことは、同作に批判的な人でも認めるところだろう。2022年の大ヒット作『Kantara』の壮大な前日譚。カンナダ語で公開されて評判になったために後から吹き替え版が作られてインド全域でのヒットとなった前作に対し、こちらは最初から汎インド映画として構想され、前作と一桁違う潤沢な資金で製作され、160分超の長尺になり、世界興収は85億ルピーを超え、2025年のインド映画全体の興収第2位となった。監督・主演は前作と同じくリシャブ・シェッティ。いわゆる大航海時代に、トゥルナードの山間部に住む部族民が平地で交易を独占する王家のメンバーと渡り合い、搾取のくびきを打ち破るまでを描く。タイトルが示唆する通り、シリーズはこの後も続く。本シリーズについてはどこかで詳細にレビューする機会が来ることを望むが、『Kantara』と『Kantara: A Legend – Chapter 1』との比較は、地方語のニューウェーブ作品が汎インド映画に変わると、何が加わり何が失われるかを分かりやすく示しているように思える。
その他のカンナダ語映画注目作品&動向
ここまで2025年カンナダ語の興収上位作品を3位から1位まで紹介したが、売り上げ面以外で興味深い作品もいくつかある。『Elumale〔7つの山〕』は、2004年を時代背景として、西ガーツ山中での恋人たちの逃避行を描くスリラー。卑小な個人の運命と大きな歴史とが夜の闇の中で交錯し、それを山の神が静かに見守る。これまで作詞家として活動していたプニート・ランガスワーミの監督デビュー作。
業界内での他ジャンルからの転身・兼業といえば、ラヴィ・バスルールも見逃せない。『K.G.F』シリーズやテルグ語作品『SALAAR/サラール』(2023)などの音楽監督をつとめ、ヒットメーカーの名をほしいままにするラヴィだが、これまでに6作ほど小規模作品の監督もしている。最新作『Veera Chandrahasa〔勇者チャンドラハーサ〕』は、トゥルナードの伝統芸能ヤクシャガーナの演目を、舞台衣装をまとったプロの役者が演じるのをアニメやCGを交えながら撮ったもの。舞台の正面にカメラを固定して撮った記録映画ではなく、ドラマとして再構成してある。「ヤクシャガーナを世界に広める」という目的で映画的に翻案することなく製作したという。
以上、目立った動きをざっと紹介したが、本稿中に何度も出てきた、カルナータカ州沿海地方の南半分を示す地名トゥルナードが、やはり本年もキーだった。映画産業の中心が内陸の州都ベンガルールであるのは揺らがないが、活気をもたらしているのはトゥルナードを舞台にしたテーマや出身の人材である。カンナダ語映画界の西高東低はしばらく続くのだろうか。
もう一つ、他州からヒロイン女優を迎えることが多いカンナダ語映画界で、カンナダ語を母語とするトップヒロインとしてルクミニ・ヴァサントが地位を固めたことも記しておきたい。2019年にデビューし、冒頭で述べた“K.G.F後”停滞期に、質的に傑出した『Sapta Saagaradaache Ello – Side A/Side B』2部作(2023)でラクシト・シェッティと共演して強い印象を残したルクミニは、『Kantara: A Legend – Chapter 1』の王女役で全インド的に名前を売ることになった。また7月には、モノクロ時代の南インド映画全体のグラマー・クイーンだったB・サロージャー・デーヴィが87歳で世を去った。
On this sacred Chamundi Dasara, may blessings and divinity guide us all 🙏
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参考リンク集
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