2025年のタミル語映画を振り返る

タミル語作品の字幕監修でお馴染みの深尾淳一氏による、2025年のタミル語映画振り返りをお届けします。
インド映画タイムズ 2026.01.09
誰でも

興行成績から振り返る2025年タミル語映画

2025年のタミル語映画を概観するうえで、まずは興収の大きなメルクマールとなる10億ルピー超えの作品に触れておこう。興収第1位となったのは、ラジニカーント主演の『Coolie(クーリ)〔苦力〕』(未)であった。全世界興収は約51億ルピーに達し、インド全体の年間興収ランキングでも第5位に入った。タミル語映画の歴代興収を見ても、第4位に当たる堂々たる成績であったが、『ヴィクラム』(2022)、『レオ:ブラッディ・スウィート』(2023)と、次々と自らの興行記録を塗り替えるローケーシュ・カナガラージ監督が、スーパースター、ラジニと初タッグを組んだ上に、カメオ出演のアーミル・カーンに、ナーガールジュナ、ウペンドラというテルグ語・カンナダ語映画界の主役級スターも出演とのことで、公開前にはタミル語映画初の100億ルピー超えを期待する声もあっただけに、満足できないとの見方もあった。しかし、ローケーシュ監督お得意のフィルムノワール仕立ての重厚な世界観のもと、二転三転する練りに練った脚本で最後まで観客の目を釘付けにする力のある作品であった。

 興収第2位は、世界興収24億ルピーの『Good Bad Ugly(グッド・バッド・アグリー)〔善悪醜〕』(未)。前作『マーク・アントニー』(2023)同様、アーディク・ラヴィチャンディラン監督作品らしい、全編フルスピードの疾走感に満ちたアクション映画で、主演アジトクマールの過去作ネタもたっぷり盛り込まれており、暴力的で残虐な犯罪映画であった『Coolie』と比べると、どの世代でも楽しめる娯楽作であった。

 世界興収15億ルピーで3位の『Dragon(ドラゴン)』(未)、11億ルピーで6位の『Dude(デュード)〔あいつ〕』(未)はいずれも、新進気鋭プラディープ・ランガナーダンの主演作だ。前者は、偽の成績証明で優良企業に入って成功を掴んだ主人公が、大学に戻って学位を取り直そうと奮闘するお話、後者は、幼馴染の女性からの告白を断った主人公が彼女への愛に気づき求婚するが、彼女は別の男性と恋仲になっていて、その結婚話を成就させようと努力するという青春コメディーで、若者の絶大な支持を得た。

 興収4位は『Vidaamuyarchi(ヴィダームヤルチ)〔不屈の努力〕』(未)。アジトクマール主演のアクション巨編で、世界興収は13億ルピー以上だったが、製作費が巨額で興行的には失敗作であった。5位の『Kuberaa(クベーラ)〔財神〕』(未)は、ダヌシュ主演のテルグ語・タミル語同時公開作。テルグ版はヒットしたが、タミルでは振るわなかった。ダヌシュは今年は、タミルでの活躍は比較的目立たなかったが、ヒンディー語映画『Tere Ishk Mein(テーレー・イシュク・メーン)〔君の愛の中で〕』(未)のヒットで、久々にボリウッドで存在感を示した。7位の『Madharaasi(マダラーシ)〔マドラス野郎〕』(未)までが、いわゆる10億クラブとなる。『ダルバール 復讐人』(2020)、『サルカール 1票の革命』(2018)などのヒットメーカー、A.R.ムルガダース監督、『マーヴィーラン 伝説の勇者』(2023)のシヴァカールティケーヤン主演のこの作品も、製作費回収には至らなかった。

2025年タミル語映画の総括

 総合的に見ると、2025年は「新たな才能活躍の年」として後々記憶されるかもしれない。個人的な2025年度ベスト作品は、『ツーリストファミリー』だ。スリランカから密入国したタミル人家族が、チェンナイでその素性を隠して送る生活を、ユーモアと人間愛を込めて描いた極上のホームドラマで、多くの観客の感動と涙を誘い、評論家の高い評価も受けた快作である。監督・脚本のアビシャン・ジーヴィントは、弱冠25歳で、ユーチューブの短編映画で知る人ぞ知る存在だったらしいが、長編の商業映画はこれが初めての経験で、まさに末恐ろしい才能である。2026年は主演俳優としてもデビューの予定で、今後の活躍が注目される。『ツーリストファミリー』はこの2月には日本での公開を控えている。インド映画の新たな才能に触れるためにも、そして、排外主義がはびこる今のこの国を見つめ直す意味でも、必見の映画だと強く言いたい。

『ツーリストファミリー』© Million Dollar Studios C MRP Entertainment. 配給:SPACEBOX

『ツーリストファミリー』© Million Dollar Studios C MRP Entertainment. 配給:SPACEBOX

 先に触れたプラディープ・ランガナーダンにとっても、2025年は飛躍の年だった。彼も20代で監督デビュー、2作目『Love Today(ラブ・トゥデイ)』(2022・未)で主演も務め大ヒット。2025年は主演作2本がいずれも大ヒットとなり、一躍次世代の人気スターとして若者の支持を集める存在となった。2026年には、『Love Insurance Kompany〔恋愛保険会社〕』が待機しており、さらなる飛躍が望まれる。

 ロッテルダム国際映画祭でNETPAC賞を受賞するなど、海外で高い評価を得たのが、『Bad Girl〔悪い娘〕』(未)。ヴェットリマーラン監督のもと『尋問』(2015)などで助監督を務めた若手監督ヴァルシャー・バラトのデビュー作である。国内市場で大きな成績に繋がるような作品ではないが、インドの若い女性の視点から社会を率直に描くという点で、他にない魅力を備えた映画となっていた。

 一方、ベテラン勢では、マニラトナム監督が『ナヤカン/顔役』(1987)以来、38年ぶりにカマル・ハーサンとタッグを組むことで注目を集めた『Thug Life(タグ・ライフ)〔盗賊人生〕』(未)が興収ランク上は8位ながら、20億〜30億ルピーの製作費に全く届かず、この年を代表する失敗作となった。また、『ロボット2.0』(2018)のシャンカル監督のテルグ初進出作であった『Game Changer』(未)も45億〜50億ルピーにのぼる製作費の半分にも届かない大失敗であった。しかし、二人ともこれほどの規模の大作に挑む情熱を変わらず持っているところを見ると、今後もまた優れた作品を届けてくれることに期待したい。

その他の注目作品

2025年、その他注目すべき作品としては、実在の被差別集団出身のカバディー選手を題材にしたマーリ・セルヴァラージ監督の『Bison Kaalamaadan(バイソン・カーラマーダン)〔バイソン 死と正義の牛神〕』(未)、1950年代映画界を舞台にしたセルヴァマニ・セルヴァラージ監督の『Kaantha(カーンター)』(未)、少年の成長を軽快に描いたラーム監督の『Paranthu Po(パランドゥ・ポー)〔翔んでいけ〕』(未)を挙げておきたい。

参考リンク集

告知

深尾淳一氏によるオンライン講座「スリランカのタミル人の歴史と文化」が、2月14日に予定されています。本稿で触れた『ツーリストファミリー』も、講座内で扱われる予定です。

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