2025年のインド映画界
2025年のインド映画界は、前年末、2024年12月5日に封切られたテルグ語映画『プシュパ 君臨』の大ヒットが続く中で幕を開けた。原題は『Pushpa 2 : The Rule』。2021年12月17日に封切られ、その年の興収第1位となった『プシュパ 覚醒(原題:Pushpa : The Rise-Part1)』の続編である。しかしながら、『プシュパ 君臨』は最終的に興収180億ルピーと、歴代興収第3位の記録的ヒットとなったものの、痛ましい事故も起こった。12月4日の公開前プレミア上映に劇場に詰めかけた人々の中で、母子が倒れた群衆の下敷きとなり、母親が死亡、幼い息子も大ケガを負うという惨事になったのである。この事件が招き寄せたかのように、2025年のインド映画界は、困難と向き合う状況となった。
インド映画世界興行収入Top10(2025年1~11月)
2025年の興収トップ10は、上記の表のようになっている(12月5日執筆時)。11ヶ月間のヒットの流れを見てみよう。2025年公開作の初ヒットは、2月14日に封切られたヒンディー語映画『Chhaava(獅子の子)』だった。マラーター王国の英雄シヴァージーの息子サンバージーを主人公にしたもので、ヴィッキー・コウシャルが主演し、サンバージーを打ち破って非業の死を遂げさせるムガル帝国第6代皇帝のアウラングゼーブを、老けメイクでアクシャイ・カンナーが演じた。監督は、社会派コメディ『Mimi(ミミ)』(2021)等を撮ったラクシュマン・ウテーカル。右傾化傾向の続くインドでは、当初からヒットが予想されていた作品である。
その後はヒットが出なかったインド映画界だが、7月には想定外の作品がヒットとなった。ヒンディー語映画『Saiyaara(惑星)』である。監督は『愛するがゆえに』(2013)をヒットさせたモーヒト・スーリーで、フレッシュな新人ペアを起用、音楽をからめた純愛物語を成功に導いた。ヒロインが若年性アルツハイマー、という設定から、韓国映画『私の頭の中の消しゴム』(2004)のパクリでは、とも指摘されたが、多くの観客を引きつけた。
そして夏には、大作の公開が重なる。共に8月14日公開のタミル語映画『Coolie(クーリー)』と、ヒンディー語映画『WAR/バトル・オブ・フェイト(War 2)』である。前者はラジニカーント主演で製作費35億ルピー、後者はリティク・ローシャンとNTR Jr.主演で製作費は40億ルピーと、両方とも大ヒットを目指したが、興収は製作費とトントンか、それを少し超えるぐらいで、主演俳優の魅力だけでは客は呼べないことが証明された。
そんなインド映画界を震撼させたのは、10月2日公開のカンナダ語映画『Kantara: A Legend - Chapter 1(カーンターラ:伝説―第1章)』である。本作の物語は、『Kantara(カーンターラ 神話の森)』(2022)よりも何世紀も前の時代になっており、さらに奥深い世界へ観客を誘い込んで、現在までに85億ルピー超という世界興収を挙げている。監督・脚本・主演リシャブ・シェッティというワンマン・ショーは相変わらずで、製作費は、多言語による全国展開の汎インド映画にしては低額の13億ルピー。本年最大のヒットとなることはほぼ決定である。
このようにあと1ヶ月残ってはいるが、2025年も南インド映画が興収トップの座を占め、ヒンディー語映画は興収第10位までに入っている数は4本と多いものの、勢いは今ひとつである。また、トップの『Kantara: A Legend - Chapter 1』にしても、歴代興収では第13位であり、昨年2024年の作品は、その上に3作品ランクインしていることから、本年は昨年に比べてインド映画界全体が低調な年であった、と言えるだろう。このあとの年内公開予定作で、話題になりそうな作品は見当たらない。
インド映画の勢いはどこへ
インド映画の勢いはどこへ行ってしまったのか。ボリウッド映画に関して言えば、OTT、つまり配信網にさらわれてしまった、と言えるだろう。本年後半の話題を一番さらったボリウッド作品は、Netflixで9月18日から配信されたアーリヤン・カーン監督デビュー作『ボリウッドをかき乱せ!』だった。『KILL 超覚醒』(2024)に主演したラクシャと、同作で敵役を演じたラーガヴ・ジュヤールを中心キャラクターに据え、「ボリウッドあるある」をたっぷりと描いてみせた『ボリウッドをかき乱せ!』は、監督の父親シャー・ルク・カーンのコネを十二分に使った豪華なゲスト出演者たちの名演技と共に、自らの住む世界を冷静な目でカリカチュアライズして見せたアーリヤン・カーン監督の手腕が高く評価された。
Netflixに関して言えば、先般ヤシュ・ラージ・フィルムズはNetflixとパートナーシップ契約を結び、多数の過去作を放出した。また、敏腕女性プロデューサーであるエークター・カプールの製作会社とも提携を進め、インド製作映像作品の海外進出を進めていくという。Netflixは、単なる配信会社以上の存在となりつつあり、将来的にボリウッドの一角を担う存在となるかも知れない。
一方、南インド映画界は、『バーフバリ 伝説誕生』(2015)公開後10年に当たる今年、『バーフバリ 王の凱旋』(2017)との2作をドッキングさせて、新たに編集し直した3時間45分の『バーフバリ エピック4K』を製作、10月31日からインドと世界各地で封切った。またS.S.ラージャマウリ監督の次作に関しては、11月15日にハイダラーバード郊外のラモージ・フィルム・シティで5万人を集めたイベントを開催、S.S.ラージャマウリ監督始め、主演のマヘーシュ・バーブ、プリヤンカ・チョープラー、プリトヴィラージ・スクマーランらが登壇し、シュルティ・ハーサンがダンサーを従えて挿入歌を歌うなど、派手なパフォーマンスで盛り上げた。明後年、2027年に公開となるこの作品のタイトルは、『Varanasi(ベナレス)』と発表された。
だがその少し前、9月27日には、またもや惨事が発生していた。2024年に政党を立ち上げたヴィジャイが政党ラリーの最中に車上から演説を行っていたところ、集まった人々があまりにも多かったために将棋倒しとなり、子供や女性を含む41人が死亡したのである。最初に書いたような映画館での事故もそうだが、スターを一目見よう、スターの出演作品をどうしても見たい、という思いがその人の死を招く、というのは、どう考えても理不尽である。昨年の映画館事故の犠牲者とケガをした少年に関しては、手厚い金銭的保障がなされたと報道されているが、そもそも映画に関連する場がそのような惨事を招くなど、あってはならないことである。
来年1月9日に封切られる予定のヴィジャイ最後の出演作『Jana Nayagan(民衆の主役)』では、ヴィジャイに有終の美を飾ってもらえるよう、あらゆる映画関係者が心して上映に携わってもらいたいと思う。
特製グッズセット(チケットとは別予約)も販売予定です。
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(2025/12/23追記)
12/5に公開されたヒンディー語映画『Dhurandhar』が、興行収入1位に迫る勢いとなっています。詳細については、松岡環先生のブログ「アジア映画巡礼(続)」をご覧ください。
参考リンク集
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